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マウスブルーダー型ベタ、飼育・繁殖ガイド
マウスブルーダーとは?
ベタ属の繁殖形態は2タイプありまして、オスがメスのお腹に巻き付いて卵をひねり出すのは共通なのですが、その後の保育の仕方に違いがあります。
1つは水面に泡巣を作って卵を保護する「バブルネストビルダー」、もう1つが卵を口内で保護する「マウスブルーダー」に分かれます。
マウスブルーダーのベタは産卵後、オス親が卵を沢山口に咥えて外敵から保護するのが特徴です。

孵化後もヨークサック(栄養玉)がなくなるまでは、引き続き口内で保護されます。早々に育児を終了する泡巣ベタと比べて、比較的長い間オス親が守ってくれる繁殖形態となります。
(泡巣:2~3日で育児終了、マウス:2~3週間程度)
マウス型ベタの代表例
| 小型種 | ベタ・チャンノイデス ベタ・アルビマルギナータ ベタ・ルブラ ベタ・シンプレックス ベタ・ディミディアータ ベタ・フォーシィ |
|---|---|
| 中~大型種 | ベタ・ユニマクラータ ベタ・マクロストマ ベタ sp. “アントゥタ” |
泡巣ベタよりもハードルが低い
マウスブルーダー型ベタは繁殖形態が独特なのはもちろん、繁殖行動のハードルが低いことも魅力ポイント。
泡巣ベタでは、水面を動かさないよう工夫したり、pH・硬度を意図的に下げたり、泡巣を作るために浮草を用意したりと、色々工夫しないと産卵にすら辿り着けないことも多いです。
一方マウスブルーダー型べタは水質(pH)・環境に無頓着な種が多く、水道水にカルキ抜きしただけのpH8.0でも繁殖行動に至りやすいです。基本的にはペアで飼っていれば定期的に産卵行動を行いますので、繁殖へのハードルはかなり低いと言えますね。
稚魚の育成が圧倒的に容易

さて改良ベタ含め泡巣ベタは沢山産まれますが、稚魚は非常に小さく初期に極小の活エサが必須。これが非常に難しく、繁殖成功のハードルを高くしています。
一方のマウスブルーダーの稚魚は少数(30~50程度)ながら非常に大きいので、市販されているブラインシュリンプエッグを孵化するだけでよく、稚魚の育成は圧倒的に簡単。

泡巣ベタと比べて非常に大きく、初期エサで失敗することはまずない。
飼育環境の例
飼育環境においては一般的な熱帯魚と同様、割とどのような環境でも良いです。泡巣型のワイルドベタと比べて、極めて止水にしたり弱酸性軟水を強く要求しません。

上記は私がよく使っている水槽構成ですが、L水槽(40cm×25cm×縦28cm)でスポンジフィルターのみでOKです。ソイルなども不要で、何ならベアタンクで飼育します。
ベタはアピストグラマなどの小型シクリッドよりも細菌性の病気に強いので、清潔化のためモーターを搭載したフィルターでなくても失敗は少ないでしょう。
水槽の大きさに関しては種によって異なり、基本的に小型種であれば20~30cm水槽でも良いのですが、ユニマクラータ・マクロストマのような中~大型種であれば45cmレギュラー水槽ぐらいは欲しいところです。(45x30x30cm)
中大型種は雌雄でケンカを行うため、狭いとキズが癒えにくくなり失敗のリスクが高くなります。よって60cm水槽も選択肢に入れると良いでしょう。

フタだけは必須
泡巣タイプのベタ含め、ワイルドベタは水面からジャンプで飛び出しやすく、死因で最もかつダントツで多いのが飛び出しです。種によって飛びやすさには違いがありますが、基本的にフタは必須としてください。
(逆にいうと飛び出し以外で死ぬことはなく、丈夫な魚です。中~大型種のケンカ問題は除いて・・・)

エサは冷凍赤虫を想定すること
現地では小さな虫・小魚を食っていただけあって、いきなり人工飼料を与えても食わないことのほうが多いです。よって基本的には冷凍赤虫で餌付けを確立させ、その後人工飼料に慣らす必要があります。
人工飼料への受け入れやすさは種によって大きく幅があり、中型以上であればいきなり食べてくれることも多いのですが、逆に小型種は餌付けに時間がかかる傾向がありますね。
種類やお店でのストック状態にもよりますが、冷凍赤虫を与えることは想定しておきましょう。(お店でバクバク食べてる個体であれば大丈夫かと)

泡巣ベタと比べると本当に気にするところがないので、総じて飼育は簡単かと思います。
繁殖の流れ
産卵行動開始
オスに泡巣を用意させるといった前準備なく、メスが卵を持つとオスにアピールを行い、それにオスが応えれば繁殖・産卵の始まりです。
泡巣ベタのように浮草を用意したりpHを下げたりなど、可能な限り止水にする必要はさほどありません。フィルターの下・水槽隅など、産卵に適した場所を見つけて、定期的に勝手に行ってくれます。



マウスブルーダーのベタはメスの方が復帰が早いことが多く、メスが先に拾い始めることが多いです。(泡巣ベタはオスが先に復帰する)
オスも復帰次第卵を拾い集め、卵を集めきったらメスが拾った卵を受取ります。


この一連の産卵行動を繰り返し、メスの卵がなくなったら産卵は終了です。
産卵の頻度
メスの産卵スパンはおよそ2週間~4週間程度です。
(過去10日・11日の高頻度スパンも何度かあり、しかも小型種・中大型種共に経験しています)
店でうまくケアされた成熟ペアを迎えると1週間経たずに産む場合もあります。そもそもメスは2週間程度しっかりエサをやれば卵管が見えて産卵可能な状態になるものが多いので、本当に産卵自体はアッサリ行ってくれるでしょう。

オスによる口内保育
産卵行動はさほど長くないため観察出来ないことのほうが多いと思いますが、オスの下顎がポコッと膨れるので産卵したかどうかは明確に判別可能です。

産卵後は3~4日程度で孵化しますが、孵化した稚魚はヨークサックが大きく、これをほぼ吸収するまではオス口内にとどまって成長を続けます。
オスは口内保育中、エサを一切食べませんので給餌は不要です。
なお保育するオスに対し、メスは保育に参加しません。むしろオスの邪魔になりますので、掬いやすいタイミングがあれば取り出した方が良いです。ただしオスを刺激してビビらせてしまうと保育を諦めて食卵につながりますので、無理のない範囲で行って下さい。(あくまでオスを刺激しないでメスを取り出せそうな場合にのみ)
ワンポイント
メスは産卵後もエサを食べに来ますので、エサやりのタイミングで水面に来たところを、スパッと取り出せればベターですね。
稚魚の放出・給餌開始

産卵・口内保護開始から2週間~3週間ぐらいで、オス口内から稚魚が出てきます。(水温によるムラあり。高いと短い)
孵化した稚魚はすぐにエサの摂食を開始しますので、稚魚が出てきたタイミングに間に合うようあらかじめブラインシュリンプの孵化を準備しておきましょう。微生物食べてなんとか生き延びたりはしますが、遅れればそのぶん数が減ります。

なお出てきた稚魚は水槽底のあちこちに散らばりますが、小型水槽かつ単独水槽であればそのまま水槽内で育てる方が楽かと思います。混泳水槽であれば他魚に食べられますので、他魚の隔離が必須です。
オス親は基本的に稚魚を食べませんので、同じ水槽で育成を行っても構いません。
ただ一部の種では食仔が報告されておりますので、不安であれば稚魚を隔離およびオス親を取り除いた方がベターではあります。(ほとんどの場合は食わないとは思いますが・・・)
エサのステップアップ

稚魚はしばらくは孵化したブラインシュリンプで育成しますが、大きくなるにつれ刻んだ冷凍赤虫や稚魚用のベビーフードも与えていきましょう。
冷凍赤虫はすんなり移行できるかと思いますが、人工飼料への餌付けは種によって食う・食わないがあり、かなり長い間冷凍赤虫しか食べない種もおります。出来れば人工飼料も絡めた方が健康・生育上は良いのですが、エサを腐らせるとそれが原因で死ぬこともありますので、そのあたりは観察しつつ人工飼料の投与を行って下さい。


こちらは人工飼料に餌付くのがかなり遅く、アダルト付近でやっと食べるぐらいだった。
さて流れは以上になりますが、泡巣ベタと比べると、マウスのベタは本当にやることが無いですね。稚魚出てくるタイミングを予想し、ブラインシュリンプを用意してれば基本はOKです。
(与えてる稚魚用フード↓)
最大の課題:食卵
さて繁殖行動・産卵自体は簡単なマウス型ベタですが、唯一繁殖で難しいのが「食卵」です。
産卵後オスが口内で卵を保育しますが、オスが保育を諦めてそのまま卵を食べてしまうことがしょっちゅうあります。膨れていた口内がもとに戻り、エサの摂食を始めるのです。


原因としては「未受精卵」「稚魚が途中で死んでしまった」「オスの保育がヘタクソ」など、飼育者ではどうしようも無い原因の他、「他魚が邪魔」「隠れ場所が無い」など外的要因でストレスを受けて食卵に繋がる場合も。
ただ水流が強すぎたり隠れ家がないような、保育を諦めるだろうと思える環境でも稚魚がアッサリ取れることもあるので、入手したオスの保育力つまり運要素が強く影響します。
さて食卵を防止するためには2つのポイントがありますので、それらについて解説します。
オスに保育を何度も経験させる
オスは初回~数回の保育では、かなり食卵する可能性が高いです。
恐らく精子の質が悪くて無精卵の数が多かったり、口の中で無精卵を食べる際にうまくいかず有精卵ごと食べちゃったりしていると考えられます。(真相は不明ですが・・・)
何度も産卵・口内保育を繰り返すごとに少しずつ保育が上達するようで、回数を重ねれば食卵までの日数が伸びてくる傾向があります。よって最初の数回程度であれば食卵するのはむしろ普通のことなので、始めのうちはある程度仕方のないことでしょう。
(※たまに現地で保育を経験していたのか初回からうまくケアするオスもいます)
さて一度でも稚魚の保育を成功させると、その後の保育成功率はかなり上がります。
これは数をこなさせるしかありませんが、マウス型ベタは早ければ10日~2週間でも再度産卵が行われますので、練習させる機会には恵まれるはずです。
オスを安心させる環境作り

オスが「この環境ではとても保育できない」と思ってしまったら、食卵してしまいますので、落ち着いて保育できる環境作りはするべきです。代表的なポイントは以下。
- 「ココナッツシェルター」「自立する流木」「ネグロウォーターファンなどの大きな浮草」「底にモモタマナ・マグノリアリーフなどの落ち葉」など、オスが下に隠れられるような場所を作る。
- ペアのみの単独飼育にする。
- 水槽の横面・背面の3面を黒い紙や布で覆う。
- メスを取り出し水槽内にはエサを与えないようにして、オスの食欲を刺激しない。
個人的には最低限隠れ場所は用意してあげるのが良いと考えています。

ただオスが上手ければベアタンク・混泳魚がいても稚魚の保育を完了させるので、どこまで必要なのかは個体によって大きく変わります。
少なくとも他魚がいるとオスは稚魚を吐けないので(食われるから)、どこかのタイミングで取り出す必要はありますね。

人工保育のやり方
残念なことにどれだけ水槽内を落ち着いた環境にしても、ずっと(半年間は)食卵が続くこともたまにあります。その場合はオスがかなり保育下手・神経質など、オス側に何らかの問題がある可能性が高いです。
マウス型ベタの卵は取り出して人工的に孵化することも可能ですので、そのやり方を説明しますね。
水質を主張する人もいるが
人によっては食卵は水質が問題だと考える方もおられますが、産卵・繁殖行動を起こす時点でクリアしていると考えられます。またずっと食卵するオス親から、そのまま水質をいじらずに人工保育に切り替えても、普通に孵化かつ稚魚が健康的に育つので、個人的には産む・育つ以上は水質には問題ないかと思います。
ただし孵化した稚魚が育たない場合は、水質も疑って下さいね。
オス口内から卵の取り出し

卵を咥えたオスを発見したら、「中くらいのプラケース」や「タライ」などの容器に少量飼育水を入れて準備します。
オスを取り出し爪楊枝など細い棒でオスの口をこじあけながら、容器内の水に浸してゆすぎます。この時、容器が小さいと手が水に入らないので小プラケースは適しません。


うまくエラを優しく揉んで口内に水流をおこせば上手く取り出せますが、慣れないうちは難しいです。
孵化器(インキュベーター)への投入
取り出した卵はゆるめの水流をあて、腐らないように維持すれば孵化させることが出来ます。
マウスブルーダー用の人工孵化器(インキュベーター)が市販されておりますので、それが最も適切でしょう。最も入手しやすいのは「ZISS AQUAのインキュベーター」だと思いますが、個人的にもそれが不自由なく使えてオススメです。


グッピー・稚魚用の稚魚ケースで水流を弱くあてることでも可能なのですが、うまく水流が均一にならなかったり失敗が多いです。床ずれもしますので、たまにコロコロ転がしたりする必要もあり非常に面倒。
成功率を考えれば専用のインキュベーターを使うのがマストとなるでしょう。道具のせいで失敗なのか、無精卵で失敗なのか分からなくなります!

ZISSのインキュベーターに卵を投入したら、卵が少し上側に移動する程度に水流の強さ(エアーレーション量)を調節して下さい。


上記ぐらいが目安です。
一番底でとどまっている状態はカビやすくなってしまいますし、強すぎてグルグル回転している状態だと卵・内部の胚を痛めてしまうのでほどほどに。
カビの撤去
1日経過すると無精卵は明らかにカビて腐ってきます。
そのままにしておくとカビが大きくなり、隣接した有精卵もカビが侵食してダメになってしまいます。なので無精卵・カビ卵は分かり次第スポイトなどで取り除いて下さい。

およそ2~3日程度で稚魚が孵化しますが、ヨークサックが小さくなるまではそのままインキュベーターで保育を続けます。(ダメ卵の撤去以外は何もしない)

なお卵が2日経っても全く発生(稚魚への進行)が見当たらない場合は、オスの精子またはメスの卵そのものに問題があると考えられます。(いずれ全てカビます)
オスが未熟な可能性が高いので、人工保育は中止してしばらく親魚の育成に注力して下さい。
給餌開始
ヨークサックが小さくなるにつれ、稚魚は底から少し離れる程度の遊泳を開始します。
この時上側にあるインキュベーターの排出口に囚われて動けなくなったりするので、適宜様子を見ながら水流は調節しましょう。(いない場合は水流を止めてみると落ちてきたりします)
さて遊泳が開始されましたらそろそろブラインシュリンプの摂食を始める頃ですので、頃合いをみてブラインシュリンプの孵化を準備して下さい。稚魚はヨークサックがある状態でも遊泳力がある程度備わっていればブラインを食べます。
スポイトで孵化したてのブラインを集め、孵化器フタ(スポンジ)の隙間からブラインシュリンプを投与すればOKです。

ヨークサックが完全に消え、自由に泳ぎ回るようになればインキュベーターでの育成は終了です。
一般的な隔離箱などで育成を行っていきましょう。
(しばらくはインキュベーター内でも育成可能だが、どこかのタイミングで空気呼吸が必要となるのは失念しないように)
人工孵化の副産物
不思議なことに一度人工的に孵化させ稚魚をとると、オスはその後口内保育を成功させやすくなる傾向があります。
インキュベーター内の稚魚を見ることでオスの母性本能が活性化されたのでしょうか?。真実は不明ですが、どうしてもとれないようであれば一度人工孵化・保育を行ってみましょう。
質問コーナー
稚魚の水換えはどうすればいいですか?
普段から水道水ベースで管理しているのであれば、さほど気を配る必要はありません。基本的には少量をこまめに。
水道水ベースで定期換水を行っていれば、水換えしてもほぼ水質は変わりませんのであまり神経質にならなくても良いです。
稚魚がブラインシュリンプを食べだしたら水の汚れが蓄積されてきますので、ブライン食いだして1週間後ぐらいのタイミングで、1/4~1/5換水ぐらいを週1ぐらい行えば良いかと思います。
(私はpH変わってないなと思ったら、初換水に3/4の換水も行うこともあるほど。ただ水温は合わせて下さい)
さて注意が必要となるのは「普段水換えほとんどせず低pHになっている」ケースや「ピートモスなど低pHで維持」しているケースです。
そういった低pH状態の場合、普通に水換えするとpHが戻ってしまうので、稚魚のダメージになりえます。そういった場合は、pHが同等かつ新鮮な水を少しずつ入れ換える必要があるので注意して下さい。(これ難しいので普段から水道水ベースの飼育がオススメ)
なお水換えしないと稚魚の生育が遅く、成長しても本来のサイズまでに育たなかったりする弊害がありますので、水換えで新鮮な微量元素を補充することは健康上必須となります。
基本にはなりますがpHを要所要所で測定しておき把握しておくのが良いでしょう。
人工飼料を食べてくれません。ワイルドベタが食べやすい人工飼料のオススメはありますか?
デルフィシュのデルフレッシュフードですね。あとはテトラミンです。
人工飼料は明らかに「美味しい」「まずい」があるようで、エサによってはとことん食べてくれないことは結構あります。
さてマウスブルーダーベタ含め、人工飼料に餌付きにくい魚の場合、私はデルフィスの「デルフレッシュフード」を使っております。

あとはテトラの「テトラミン」ですね。このフレークフードは昔から嗜好性が高く知られており、餌付けにも有効です。
ただフレークフードなので、ちぎれて小さな破片になって水槽奥でゴミになったり、フィルターに吸われて詰まりやすかったりするデメリットがあります。エビや残飯を食べる貝などのスカベンジャーがいれば特に問題ないとは思いますが、私はあまり使わないので「デルフレッシュフード」を使用することが多いですね。

嗜好性の高いフードを与えるのも餌付けのポイント。
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