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サイアミーズフライングフォックス
簡単
弱酸性 | 中性 | 弱アルカリ |
---|---|---|
良好 | 良好 | 良好 |
幼少期は群れる傾向があるが、成長に伴いその性質は弱くなる。
※上記はGoogleMap上での代表地域を示したものです。厳密な生息範囲ではありませんので、参考情報までに。
主な特徴

「サイアミーズフライングフォックス」は、細長い体に横一線の黒いラインが入るのが特徴のコイ科熱帯魚です。
アクアリウムでは、エビ・オトシン・プレコ類が食べない「黒ひげゴケ」を食べる貴重な存在であり、また糸状ゴケである「アオミドロ」にも非常に効果があることから、水槽内のコケ取りとして多く販売されています。
せわしなく動きながら葉や流木、岩についたコケをバババババッと舐め取るようにしてコケをついばんでくれ、貝やエビに無い高い機動力は大きなメリットです。
なお「サイアミーズフライングフォックス」と売られている魚は、非常によく似ていますが複数種区別なく販売されており、購入した種によって大きさが10cm・16cmと大きく異なります。コケ取り能力・性格の荒さにも差が出ますので、気になる方はよく観察してみると良いでしょう(末尾後述)。




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YOUTUBEにアップロードされている動画のうち、種類が分かりやすいものを紹介します。
※当サイトとは関係がない第三者によるものです。動画共有が許可されたものを紹介しておりますが、権利者からの要望には真摯に対応させていただきます。
コケ取り性能
茶ゴケ |
C |
---|---|
糸状ゴケ, アオミドロ |
B |
緑のスポット状コケ |
E |
黒ひげゴケ, 短い毛布状のコケ |
C |
藍藻, シアノバクテリア |
E |
茶ゴケ・アオミドロ・ヒゲ状ゴケと様々なコケに対応してくれます。
とはいえ最もサイアミーズフライングフォックスが重宝されるのは、他のコケ取りが全く食べない「黒ひげ状のコケ」「硬く短い毛布状のコケ」を食べることです。この点から水草水槽には高い需要があります。


混泳・性格
基本的に温和ですが、成長すると場合によっては他魚を追い回します。
サイアミーズフライングフォックスは販売されている若いサイズであれば温和であり、どのような魚とも混泳させることができます。
ただ「サイアミーズフライングフォックス」として売られている魚は、見た目はほぼ同じなものの異なる種が混在しており、種によっては成長すると他魚を追い回します。

問題となるのは10cm近くに成長した段階ですが、安全をとるならテトラ・コイ類・レインボーフィッシュなどの「水槽への導入数が多く泳ぎも早い魚」との混泳が望ましいでしょう。逆に水槽に数匹しかおらず泳ぎが下手な魚は、購入したサイアミーズフライングフォックスの種によっては要注意です。
なお30cm水槽など小さな水槽では成長が抑制されるので、荒くなるサイズにならず終生温和な魚のイメージを持たれる傾向があります。
エサ
エサは藻類の他、何でも食べます。
本種は幅広い種類のコケを食べるため、照明をしっかり付けて藻が生える環境であればエサは基本的に不要です。
また熱帯魚のエサも率先して食べに来るため、藻類がなくなった場合でも餓死の心配はまずありません。
飼育ポイント
飼育はとても容易で、特に注意することはありません。
強健といっていいほど丈夫な魚で、熱帯魚を飼育できる最低限の環境があればそれで良いです。
ただ驚いた時に猛ダッシュして水面から飛び出していく場合があるため、飛び出しには注意して下さい。特に身体に対して狭い水槽だと顕著です。
(つまり大きい水槽から小さい水槽へ出張させるとよく飛ぶのでフタ必須)
繁殖
繁殖は報告されておらず、困難です。
飼育下で繁殖した例がなく、販売されているのは野外採取されたものです。養殖に関しても行われていませんので、かなり困難かと思われます。
その他・補足情報
同じ販売名で複数種が混在する
「サイアミーズフライングフォックス」として売られている魚は、外見上かなり似ているものの一般的には複数種混在しています。
お店やタイミングが異なると種が異なることがあり、同じサイアミーズフライングフォックスを買ったつもりでも別の魚を購入している場合があるということです。
同属のシルバーフライングフォックス(Crossocheilus reticulatus)は明らかにコケを食う能力が高いため、サイアミーズフライングフォックスについても種によってコケ取り能力・性格に差が出る可能性が高いので、よく観察して区別するとコケ取りに役立つかと思います。
Crossocheilus langei

「Crossocheilus langei」は腹ビレと尻ビレ間の肛門付近が暗い色を持ち、光のあたりかたによっては眼球の上部分が赤色に見えるのも特徴です。
また側線が黒ラインの中心部分を通るのも分かりやすい差異ポイントになります。


一部の愛好家からは「入手するべき真の黒ひげイーター」と評価されている種で、個人的にも黒ひげゴケをそれなりには食べてくれた実感があります。また体長は12cmほどと小さいので、水槽内では大きくならないところも良し(60cmで9cm程度が目安)。
なお本種は愛好家からヒゲが2対あることも差異ポイントとされることがありますが、レビュー論文では「個体差があり、仮に2対ヒゲを持つものでも口の角から僅かに露出している程度」とされていますので、ヒゲが2対ないからといって必ずしもC.langeiでないとは断定できません。
私が2010年~2020年にコケ取りとして入手したいくつかの個体は「C. langei」ばっかりだったので、(1番多いかは分かりませんが)多く流通している種の1つでしょう。
分布はスマトラ島です。
Crossocheilus atrilimes

「Crossocheilus atrilimes」は、体高が他種と比べて高く、口吻が短く太いのが特徴です。また成長すると黒ライン下部に暗色班が表れるのも差異ポイントになります。
種名は「ater(黒い)」「limes(細長い)」が由来ですが、これは黒ラインが細めであることを意味しているかと思います。先述した「C. langei」と比べると実際黒いラインは細いです。(論文中には「From the Latin ater (black) and limes (a narrow and elongate space)」だけでしたので・・・)。
体長は10cmほどなので、こちらはやや小さめです。60cm水槽なら7~8cmぐらいに収まる個体が多いでしょう。


本記事を書くにあたって、いくつかのショップを回ってリサーチしてみましたがこちらも普通に入手することが出来ましたので、同じく流通が多い種です。(2025/01時点の調査)
黒ヒゲも食べてくれる種ですが海外の愛好家の中では、モスなども食害する上成長すると性格も荒いとされており、嫌われてる印象がありますね。ただ「C. atrilimes」と後述する「C. oblongus」を区別したうえでそう判断しているかは疑問です。
分布はタイおよびタイ周辺国(メコン川水系)です。
Crossocheilus oblongus
「Crossocheilus oblongus」は、ライン下側に暗色班が見られず本種だけ体長が16cmとデカいのが特徴です。
先述した「C. atrilimes」とよく似ていますが横ライン下に暗色班がないこと、体高がスリムでラインが太めの印象を持つこと、口吻が長いこと、12cmを超えることが分かりやすい差異ポイントになります。しかしながら小さいサイズだと見分けが困難でしょう。
現実的に売り場での判別は困難かと思いますが、こちらは尻ビレと肛門間の鱗数が「1~1+1/2 (稀に2)」に対し、C. oblongusは「2~3+1/2」なので、うまくウンチのタイミングに出くわせば尻ビレまでの鱗数を数えてやると判別可能であります。

口吻も短いですしC. atrilimesかと。
ちなみに広域分布種でタイ周辺国~スマトラ島~ボルネオ島まで広く分布するため、先述した2種とも分布域が被っており、混ざって販売されているなら「C. oblongus+C. langei」 または「C. oblongus+C. atrilimes」のパターンが多いかと思われますが、過去の入荷や問屋水槽時点で混ぜたりすることは日常的に行われますのでこれは当てにならないかも知れません。
大きく成長すれば判別しやすくなると思いますが、コケ取りに使うのであれば小さいサイズ時点で判別したいところ。個人的には区別しやすい「C. langei」に限定して購入するのが一番無難かと思います。
確実に黒ひげを食べて欲しい場合は、種が明確で確実に食べてくれる「シルバーフライングフォックス」を選択するのも良いかもしれません。
Garra cambodgiensis

さてサイアミーズフライングフォックスは基本的に先述したCrossocheilus属なのですが、稀にガラ属の「Garra cambodgiensis」も混ざって売られることがあります。分布はC. langei以外と同じタイ周辺国です。
先述した3種と比べると別属ということもあり、「黒いラインが尾びれまで入らない」「黒いラインの上に白いラインっぽいものが入る」「各ヒレにほんのり色が入る」など容易に区別できます。泳ぎ方についても先述したCrossocheilus属が大きくならないと地面に降りないのに対し、こちらは小さい時期から床に度々鎮座するなどの違いがあります。
特筆点としてこのガラ・カンボジエンシスという魚は、コケをあまり食わず他魚に攻撃的なため、水草水槽愛好家からは「サイアミーズフライングフォックスの偽物」という扱いになっていることです。
体長も15cmと大きくその点も好ましくありませんので、コケ取りとして見るなら避けた方がベターでしょう。(観賞魚としては見た目も動きも魅力ある魚なのですが・・・)
ちなみにサイアミーズと付かないフライングフォックスもあり、それは別属の「Epalzeorhynchos kalopterum」です。お店によって「リアル フライングフォックス」「フライングフォックス(本物)」と表記されるので、コケ取りとして使うユーザーからするとややこしいんですが見た目はかなり違いますのでここでは割愛します。
”サイアミーズ”は無効種
サイアミーズフライングフォックスは1931年に「Epalzeorhynchos siamensis」として記載されたのですが、後に「Crossocheilus oblongus」で1823年に既に記載されていた事が発覚して無効種(シノニム)となっています。
ホビーアクアリウムでは変わらず「サイアミーズ」という名前なのですが、それはホビーアクアリウムでの販売名にしか過ぎません。
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参考文献
- Maurice Kottelat. Diagnoses of a new genus and 64 new species of fishes from Laos (Teleostei: Cyprinidae, Balitoridae, Bagridae, Syngnathidae, Chaudhuriidae and Tetraodontidae).
- Mat Esa Mohd Ikhwanuddin, Mohammad Noor Azmai Amal, Azizul Aziz, Johari Sepet, Abdullah Talib, Muhammad Faiz Ismail, Nor Rohaizah Jamil. Inventory of fishes in the upper Pelus River (Perak river basin, Perak, Malaysia)
- Patrick J. Ciccotto, John M. Pfeiffer, and Lawrence M. Page. Revision of the Cyprinid Genus Crossocheilus (Tribe Labeonini) with Description of a New Species.
- Su Rui-Feng, Yang Jun-Xing and Chen Yin-Rui. A REVIEW OF THE CHINESE SPECIES OF CROSSOCHEILUS, WITH DESCRIPTION OF A NEW SPECIES (OSTARIOPHYSI: CYPRINIDAE)
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