
更新:
キフォティラピア・ギベローサ
難しい
うつ病で死ぬ
弱酸性 | 中性 | 弱アルカリ |
---|---|---|
✕ | △ | 良好 |
※上記はGoogleMap上での代表地域を示したものです。厳密な生息範囲ではありませんので、参考情報までに。
主な特徴

「キフォティラピア・ギベローサ」は最も代表的なシクリッドである「キフォティラピア・フロントーサ」の近縁種です。
見た目はフロントーサとかなり似ていますが、体色に青みを持つ傾向があり古くから一部愛好家に根強い人気があります。
2003年に種が記載されて「Cyphotilapia gibberosa」種となりましたが、それ以前はフロントーサの「ザイールブルー」タイプとして扱われていました。そのためショップによっては未だ旧学名・地名の「フロントーサ ザイールブルー」として取り扱うケースも少なくありません。
本種はいくつかの産地バリエーションが知られており、代表的なものとしては「モバ(moba)」「ムピンヴェ(Mpimbwe)」があります。それぞれ違った魅力がありますので、吟味して好きなタイプを集めてみるのも面白いです。(ロカリティについては末尾で解説)




YOUTUBEシェア
YOUTUBEにアップロードされている動画のうち、種類が分かりやすいものを紹介します。
※当サイトとは関係がない第三者によるものです。動画共有が許可されたものを紹介しておりますが、権利者からの要望には真摯に対応させていただきます。
混泳・性格
攻撃性の低いシクリッドで混泳はしやすいのですが、むしろストレスを受ける側なので注意が必要です。
本種はシクリッドの中ではかなり攻撃性が低く、個体差もよりますが概ね混泳相手に悪さをすることはほぼありません。
口に入らない程度の魚であれば混泳可能で、口に入る魚でもネオランプロローグス属・ジュリドクロミス属などの稚魚には全くの無関心なほどです。
むしろギベローサ側がストレスを受けやすく、同格以上のシクリッド等がいるとうつ病になって死んでしまう魚です。よって混泳させる側のチョイスに気を払う必要があります。

エサ
沈下性で消化に良いものが適します。

ブリードされたものであればエサはそれなりに何でも食しますが、沈下性でかつ消化に良いものが良いでしょう。
特に水面のエサを食べた際に、空気を同時に吸い込んで体の水平を保てなくなる傾向が見られます。またお腹がパンパンになって死んでいくケースも見られるので、消化に良いエサを沈下して食わせるのを基本として下さい。(そもそも水深の深いところに生息しているため、この点からも浮上性のエサは適しません)
具体的な製品としてはデルフィスの「デルフレッシュフードSM~M」、次点で「グロウ 沈下タイプ C~E」を沈めて与えるのがオススメです。


飼育ポイント
フロントーサより神経質で、飼育はやや難しめです。雑に扱わないこと。
基本的にはフロントーサと同様に飼育が可能な魚でありますが、全体的に神経質であるため雑にコミュニティタンクにいれると失敗する魚です。
うつ病に注意
フロントーサ自体、性格がさほど図太くなく他魚に攻撃することはあまりないシクリッドでありますが、ギベローサは更に弱い方にこじらせており、個体間のストレスでうつ病になる性質があります。
他のデカいシクリッドと混泳させた場合はビビッってポックリ死んでしまうため、よほど大きい水槽でなければ本種を主役(一番デカい魚)とするのを基本として下さい。
同種においても水槽サイズが小さければ最も弱い個体からポツポツ死んでいきますので、ある程度余裕を持った水槽かつ岩組などでのスペース分けは基本になります。
水質のポイント
フロントーサだと弱酸性にやや傾いても飼育は十分可能ですが、ギベローサだと酸性に寄ると明らかに調子を崩すので、サンゴ砂orカキ殻によりpH降下抑制をするのが基本になります。
(肌に艶がなくなったり白いニキビが出てくる、食欲が低下する等の症状が出現)
また本来はアダルトで水深40mと、かなり深場にいるため水はやや冷たいほうが良いです。水槽用クーラーまでは必要性を感じませんが、常時クーラーファンを回して26度以下ぐらいを心がけると良いでしょう。
繁殖
狙えば繁殖は容易です。
本種は成熟したペアを状態良く飼育していると、自然と繁殖行動を行うので繁殖は容易です。
ただし心が図太くないため大きな他魚がいるとビビッって繁殖行動を起こしませんので、狙う場合は単独ないし水槽の主役にする必要があります。
雌雄の見分け方

一回り小さいのが最も分かりやすい。
明確な性的2型はありません。
育てきっているのであれば最終サイズが最も分かりやすく、オス20-25cmほどに対しメスは15cmほどにしか到達せず小柄です。なので15cmを超えているのであればオスの可能性はかなり高くなります。
またオスは大きくなると背びれ後端と尻ビレ後端が伸長しますので、その点も注視してみるとより精度が高まるでしょう。
産卵
調子よく飼育していればいずれ定期的に産卵を行います。
メス側が卵を口に咥えて保護する「マターナルマウスブルーダー」ですので、メスの口・下顎が膨れていれば抱卵状態です。卵を咥えた状態ではエサを食べませんのでエサ食いの際に気づくこともあります。



ペア形成後の産卵周期は2ヶ月半ほどが目安です。
自然下ではアピストグラマのようにハーレム形態ではなく、ペアで生活を行い水槽下でも決まったメスとしか繁殖行動を起こしません。よってペア確認後は他魚を除けた方がその後の経過は良いでしょう。
口内保育
稚魚は3日ほどで孵化しますがヨークサックが非常に大きく、産卵から30日ほどは親の口内で過ごします。その後は自然と親の口から出てきます。


ヨークサックは30日ほど持ちますが、2週間ほどから小さなプランクトンを摂食するため人工保育する場合は早期にブラインシュリンプを給餌することが有効です。(本来は親がプランクトンを口に入れていて世話しているのだと思われます)


稚魚は非常に大きく、まだお腹にヨークサックが残る。
保育失敗時の夫婦仲に注意
ストレス等でメスが保育を諦めて、卵を食ってしまう場合があります。
そうするとオスが激怒りし、メスへのあたりが強くなるので水槽サイズが小さければ(60ワイド)、セパレートしてしばらく隔離する等のケアを行ったほうが良いでしょう。
稚魚の育成開始
親の口から出てきた稚魚は非常に大きく、初手から刻んだ冷凍赤虫・小粒の人工飼料を摂食可能なため、その後の飼育はほぼ親魚と同様です。

その他・補足情報
フロントーサとの違い

同属のフロントーサと非常に見た目は似ていますが、ハッキリとした違いがあります。
まず外見で一番目をひくのは「オデコ」に入る黒バンドの幅。フロントーサより頭バンドが幅広いため、顔つきの印象が異なります。


また各ヒレの色彩にも違いがあり、フロントーサは黄色がかるのに対して、ギベローサはほとんど黄色味を帯びません。特に背びれで比べると顕著です。そのためギベローサの方が全体的に青みを強く感じやすく、ブルーが強いとして愛されている所以でしょう。
また体格にも差があって一般的な養殖フロントーサはブルンディという本来は35cmサイズとかなり大型のロカリティが元になっていますが、ギベローサは20cmほどで頭打ちとなります。これは多くのアクアリストにはうれしいポイントかもしれません。(記載論文の採取個体で一番大きなもので21cm。実輸入でも25cmクラスは来ますが非常に稀な方です)
記載論文で分かりやすいポイント
記載論文では歯列など色々書かれておりますが、「体にある2本側線間の鱗の数がギベローサだと3個、フロントーサだと2個であること」が最も分かりやすいので紹介しておきます。


また生息域についてはフロントーサがタンガニィカ湖の北側に生息するのに対し、ギベローサはタンガニィカ南側に生息していると記述されており、地理的な違いもあります。
飼育面との違い
飼育方法はフロントーサと全く同様なのですが、フロントーサと比べて全体的に耐性が低いので注意が必要です。
「エサによる消化不良」「高水温」、特に「個体間のストレス」などは本来フロントーサでも共通して気をつけるべきポイントなのですが、養殖されているフロントーサは非常にタフになっているためここに甘えているとあっさり死にます。
日頃からしっかり元気か?エサ食いはどうか?などはしっかり観察するようにしましょう。
ロカリティ
モバ(Moba)

コンゴ民主共和国のMoba周辺のロカリティとされるのが「モバ」です。
最も青みが濃いタイプとされ、昔から最高峰のロカリティとして知られてきました。大型化したオスは気分にもよりますが体色の白部分が青黒くなり、全体が紺色へと変化します。また目の下の黒バンドはあまり目立たないのも特徴の1かと思います。
シャイなロカリティで特にワイルドは個体差もよりますがビビりがちで神経質です。飼育者の目線を感じると水槽の隅や岩陰に隠れてじっとしていることも多いため、CB個体でもない限り大きな水槽でのびのび過ごさせた方が見応えはあるでしょう。


主にドイツから養殖されたものが日本に流通し、最近では野生採取されたワイルドものも流通することがあります。最も一般的なドイツCBで若魚20,000円、ワイルドで40,000円~60,000円で、値段も最高クラスです。
ムピンヴェ(Mpimbwe)

タンザニアのCape Mpimbwe周辺のロカリティとされるのが「ムピンヴェ」です。
先述したモバと比べると青黒さは劣るものの、言い換えれば体色の白は残りやすいためキフォティラピア本来の魅力であるストライプ模様が楽しめる魅力があります。モバと比べてこちらは目の下のバンドがしっかりしているので全体的な印象はかなり異なります。
特筆点として大胆な性格をしており、水槽の開けた空間にもよく出てきて鑑賞に非常に向いたロカリティです。ギベローサの飼育の難しさは心の弱さに起因しておりますので、物怖じしないこのロカリティは非常に飼育がしやすいというメリットがあります。
更にムピンヴェは飼育が簡単で増やしやすいことから養殖が確立されているため、日本で取り扱ってくれるショップは少ないものの安く入手できることも非常に魅力的なポイントです。(4000円ぐらい)
上記写真の個体はメスなのでイマイチに思ってしまいますが、YOUTUBEに綺麗な個体達がアップされているので下に紹介しておきます。
カパンパ(Kapampa)

Kapampaは先述したモバと同じくコンゴ民主共和国であり、モバの南にあるロカリティとされます。
同コンゴだけあってモバに比肩する青みのあるロカリティなのですが、モバが最高峰とされた背景から、多くのブリーダーはモバをブリードするようになってしまいモバ(とムピンヴェ)以外の輸入はほとんど入ってこないのが現状です。(コンゴ系のロカリティはいずれもかなり青いものが多いのですが・・・)
しかし2020年代には台湾や東南アジアより「カパンパ」も少し入ってきましたので、ここで触れておきます。
個人的な所感
(長いし内容も無いので暇な人向け↓)
フロントーサ・ギベローサは、私のとって特別な魚です。
熱帯魚の世界に足を踏み入れたばかりの頃、図鑑の中でひときわ目を引いたのが「フロントーサ」でした。その迫力ある風貌、美しい縞々の体色、堂々とした姿。強烈なインパクトに惹かれました。

しかし、図鑑に記された体長は30cm。まだ60cm水槽がMAXだった学生の私にとって、それは到底手の届かない存在でした。
それから10年ほど経ったある日。阪急3番街の今は亡き「上田熱帯魚」にて、青みを帯びた“◯◯ブルー”もしくは”ブルー◯◯”として売られているフロントーサが目に飛び込んできたのです。フロントーサとしては高価でしたが、店長の「青いタイプは珍しいよ!」という声に我慢しきれず、そのまま購入。
これが青いフロントーサとの出会いでした。
とはいえ当時の自分はまだまだ未熟で、今思えば「うつ病」にさせてしまい、長生きさせることできず殺してしまいました。それでも、このフロントーサ(ギベローサ?)との出会いは青いフロントーサが「熱帯魚のひとつのジャンル」として私の中で刻まれることになったのです。
昔はブルータイプのフロントーサも(まだ)結構流通していましたが、お金に余裕ができ90cm水槽を用意して手に入れようとすると、全く流通しなくなっており・・・。なので簡単に手に入る東南アジア産のものでキフォティラピアライフを楽しんでおりました。

そんな中転機が訪れます。2020年頃になんとワイルド(野生個体)のギベローサが市場に流通するという驚きのタイミングがありました。愛知県のケンさん(わいるどもん)氏が、ポリプテルスの副産物として野生のギベローサ(ロカリティ モバ)を輸入されたのです。
小売店へ足を運び見てみると・・・・ゴクリ・・・。血の気が引くほどとても魅力的な魚でありました。臆病で水槽の隅にいるし、体色は黒ずんでいるし、値段も血の気がひくし大丈夫かいな、などと思いつつ水槽を眺めること1時間・・・。購入に至りました。

入手できたことにより子どもの頃の情熱が再燃。
この魚を記載した高橋鉄美先生の講演にも足を運び、貴重なお話を伺う機会に恵まれました。しかもありがたいことに、講演後には先生と同席してお食事まで。現地でのキフォティラピア、フィールドの話、お猿のこと….etc。どれも胸が高鳴る内容ばかりで、今でも大切な思い出です。

そして今。あの頃の憧れだったギベローサを、自分の手でWILD個体を繁殖まで導くことができたのは私の熱帯魚史における非常に大きなイベントでございます。
そういうワケでこの魚との付き合いは長いものなのですが、今でも飽きることはありません。きっと、もし私がアクアリウムから引退する日が来ても「フロントーサ(ギベローサ)」の水槽だけは残そうと思っています。
ブログでのレビュー/批評も歓迎!
参考文献
- Tetsumi Takahashi and Kazuhiro Nakaya. New Species of Cyphotilapia (Perciformes: Cichlidae) from Lake Tanganyika, Africa.
この記事へのコメント